NATOは動かなかった
NATO(北大西洋条約機構)とは、ヨーロッパおよび北米の30ヵ国による軍事同盟である。
当初はNATOが抑止力となり、ロシアは全面的に侵攻しないだろうと大方の専門家もみていた。
しかし、なぜNATOが抑止力にならず、ロシアは侵攻したのであろうか。
ロシアが侵攻を開始したその日に、NATOは派兵をしないとはっきり表明した。
NATOが助けに行かないということは、ロシアがウクライナをどうするかを止めるものは何もない。
ウクライナの武力でロシアを止めることはかなり非現実的であるから、NATOが止めないということは世界中がウクライナを助けないということである。
「なぜ助けないのだ」という批判があることで経済制裁を加えてはいるものの、なぜNATOが行くとみられていたのに行かなかったのであろうか。
行かない理由は、アメリカと欧州でそれぞれはっきりしていた。
アメリカが動かない理由
アメリカが動かない理由はずばり「国民世論が消極的」だからである。
アメリカの世論が「行け行け!助けに行け!」というのが多数派であれば、大統領はすぐにでも「NATO派遣」をプッシュするのだが、そうではなかった。
アメリカの世論の感覚を日本人はあまり知らず、アメリカが守るだろうと勝手なイメージを漠然と持っていた。
たが、アメリカはこの10年の間に、かなり世論が変化してきた国なのである。
日本人はアメリカが世界の警察であり、民主主義でない国家が何か暴走したときに止めてくれるというイメージを持っている。
しかし、アメリカは2011年、オバマ政権時のリバランス政策から大きく路線を変換している。
軍事、経済、外交をアジア・太平洋地域に集中することで、コストを見直そうというリバランス政策をオバマ政権の時にやり始めた。
でもだからといって、各地に点在している米軍をすぐに撤退することはできない。
オバマ政権のときは「リバランス(再均衡)でいくぞ」という方針の転換が打ち出されただけで、実現することはなかった。
それで、さらにそれを推し進めようとなったのがトランプ政権だった。
トランプ政権の「アメリカ・ファースト」とは、とても耳なじみのある言葉だが、これはいったい何を意味していたのであろうか。
アメリカ・ファーストとは、「アメリカの国益に直結しない紛争への介入をしない」という意味も大きく含まれている。
「アメリカの利益になるのかならないのか」が重要なところで、「アメリカの利益にならない」のであれば、世界の警察的な役割にコストは払わないと強く打ち出したのがトランプ大統領だった。
しかし、トランプ大統領のときも米軍の撤退までは至ることはなく、それがついに実現したのがバイデン大統領のときだった。
2021年8月、アフガニスタンから米軍が実際に撤退する。
この出来事は点でとらえるのではなく、線でとらえなければならない。
アメリカの国民的には「撤退してしまった」のではなく、「アフガニスタンからようやく撤退できた」のである。
アメリカはずっと米軍が世界中で世界の警察をやっていることが負担だった。なんとかリバランスしたいと言ってから、ようやく10年後の2021年に撤退できた。
オバマ政権 2011年 リバランス政策
↓
トランプ政権 アメリカファースト
↓
バイデン政権 2021年8月 アフガニスタン 米軍撤退
撤退後、タリバンがアフガニスタン全土を制圧し、牛耳ることになったが、それに対しアメリカは介入しなかった。アメリカの国民は、アメリカ軍を世界中に派遣することに疲れ果てていたのである。
だから、今このタイミングで同盟国でないウクライナにアメリカが介入することは文脈上ありえない。
「NATOに入れたい」とアメリカが言っていたわけではなく、ウクライナが「NATOに入りたい」と言っていただけで、アメリカにとってウクライナは利益になるという位置づけではない。
それに加え、もしバイデン政権がNATOを派遣して米兵やNATOの兵隊の命が奪われることになれば、とてつもない選挙への悪影響になる。
バイデン政権が派遣するということを決定して犠牲者を多数出せば、次の選挙では確実に負けるといわれている。
ただでさえ支持率の高くないバイデン政権が、派遣というリスクのある国民の意に反する行動は決してとらない。
とはいえ、NATO(北大西洋条約機構)というのは、アメリカとヨーロッパを中心とした世界最大の軍事同盟なのだから、ヨーロッパが決断したら動くのではないだろうか。
ところが、欧州には動けない理由がある。
欧州が動かない理由
欧州が動かない理由はずばり、エネルギー問題である。
天然ガスや原油などのエネルギーにおいて、欧州は圧倒的にロシアに依存している。
なんと、欧州は天然ガス40%、原油20%をロシアに依存しているのである。
<欧州のロシアへのエネルギー依存>
天然ガス → 40%
原油 → 20%
天然ガスは電力を作るための火力発電に使用されており、これがないと電気が供給できない。国民に電気が供給できないとなれば、とても大変なことである。
それでは、ロシア以外から代替えできないのかということだが、天然ガスには2種類の輸送方法があり、パイプラインでガスのまま送る方法と、液化天然ガスを船で運ぶ方法がある。
アメリカから天然ガスを液化させて船で運ぶという方法もあるのだが、船で輸送する際は、受け取り側の港の設備の規模によって受け取れる限度がある。
なので、アメリカが助けたとしても、ロシアからの依存分をすべて補うことは不可能だと言われている。
特にドイツは電力政策を転換していて、火力発電・原子力発電をやめて、再生可能なエネルギーでいこうという政策をとっていたこともあり、石油・石炭よりもCO²排出量の少ない天然ガスをメインのエネルギーとしていた。
天然ガスの依存度も、欧州によってそれぞれだが、特にドイツ、イタリア、ハンガリーがロシアに依存している。
話は変わるが、2月27日時点の報道でドイツ、イタリア、ハンガリーが、それまでの路線を転向し、SWIFTからロシアを排除する制裁を実行することで欧米の合意が取れたと発表があった。
SWIFTとは国際間の銀行送金システムのことだが、これにより世界的な金融ネットワークからロシアが締め出される形となり、ロシア経済には大きな打撃を与えることが見込まれる。
しかし、その影響は世界各国にも跳ね返ってくる。
もし、NATOが稼働していたら
もし、NATOが稼働していたらどうなっていただろうか。
もし稼働していたら、核保有国 vs 核保有国 になっていたため、第三次世界大戦のような大きな戦いになっていたことが予測される。
そのため、大惨事の被害を避けるためにNATOを派遣しなかったとも考えることができる。
NATOが稼働しなかった理由 まとめ
<NATOが稼働しなかった理由>
- アメリカ → 世界の警察に疲弊した国民世論
- 欧州 → ロシアへのエネルギー依存
- 第三次世界大戦による被害を避ける
(中田敦彦のYouTube大学 【ロシアのウクライナ侵略①】NATOが動かない理由と、プーチンの恐るべき戦略 より)
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